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「あー、もう、タートルネックのセーターもすっっっっっっっっっごく、よく似合ってます!素敵♪これでノーブラだったら言う事ないのに」

「ばか者、そういうわけにいくか」

「あぁ、セーター越しにわかる、お稲荷様の乳首……たまんない。お稲荷様の胸はブラなんかしなくても崩れないのに、どうしてそんな勿体ない事をするんです!あーあ、下着の存在を教えなければよかった」

「…………」

 

 とある晴れた日、私はお稲荷様と電車で二駅向こうのデパートに買い物に出かけた。
 そこでお稲荷様の服をこれでもかというくらい買い込んで、その中でも最も気に入ったものを早速身につけてもらっている。赤のタートルネックのセーターにグレーのミニのプリーツスカート。
 本当はお稲荷様の力で服は作り出せるからわざわざ買う必要はないんだけど……実はこれには壮大なわけがある。

わざと1サイズ小さいものを買って、ボディーラインを強調させる。それによりお稲荷様の魅力が更に引き立つのだ。
 しかも、私の目の保養にもなって、言う事無しだ。もちろんこのことはお稲荷様には内緒だけど。
 あー、こんな素敵なお姉さまが私のものだなんて、私は世界一の果報者だ。

 

 

(ふん、お主の考えそうな事など、とうにお見通しよ。全く、困ったものよの)

 今にも鼻歌でも歌いそうなくらい上機嫌な真理子を見て、我は溜息をついた。どういうわけかこの娘にだけは頭が上がらぬのだ。
 おそらくこれまで我が関わってきた者共とは全く異なるゆえか。真理子の行動には邪気がないのだ。我の力を利用しようとするでもなく、我を辱めようとするでもなく、伝わってくる想いは、常に同じ。
 『我と一緒に居ることが楽しい』ただそれだけなのだ。

 

 だからこそ、我は真理子の酔狂につきおうておるのだが。でなければとっくに狐火で跡形もなく消し去ってくれるところよ。

(ん? あれは……)

 我の視界に興味深いものが飛び込んできた。横をちらりと見ると、真理子の視線もそこに向けられていた。ほう、さすがは半分は神になっておるだけのことはあるか。

「お、お稲荷様、あれ」

「くく、人間というものは何ゆえ面白いものが多いのかの。家族を守りたいがために半妖になるとは」

 おや、我の視線に気付いたか。人間の影を背後に浮かばせた一匹の黒猫が我の方に駆け寄ってきた。

 

 

「いい天気だねー、陽子」

「んみゃー」

 折角の天気のいい休日に何もしないのは勿体ない、ということで、私たちは散歩に出かけた。陽子は猫の姿で私の肩に乗っている。

 

――それはいいんだけど、たまに耳に息を吹きかけたり舐めてくるのは勘弁して欲しい。
 しかもそれを人とすれ違う時を狙ってやってくるもんだから、感じてるのを顔に出さないようにするのが一苦労。全く、もう少し考えてよね。

「ふわぁ〜」

 当人(今は人じゃないか)はそ知らぬ顔で欠伸をしている。呑気なもんだ。

「ちょっと陽子、こんなとこで寝たら落ちるよ」

「ふみぃ〜」

 

 

 だってしょうがないよ。月子の肩の上、とっても気持ちいいんだもん。眠たいのは私のせいじゃないもん。
 それにしても、やっぱり猫の時の方がザラ舌の効果は抜群なのかな。月子、すっごく敏感になってる気がする。
 猫の姿だと舐めてても周りの人に変に思われないから便利。しかも肩の上に乗ってると耳が丁度舌を伸ばしたとこにあるんだよね。
 うーん、何だか眠くなってきたし、月子の耳でも舐めながら寝ようかな。ペロペロ。月子の耳、とってもおいしい。

「きゃっ、ちょっとやだ陽子!」

 も〜う、うるさいなぁ。静かに寝かせてよ。

 ……あれ? あの人たち、何であんなものが……。狐の耳と尻尾?どう見ても本物っぽい。

 しかも、何故か私の方を見ているみたいだ。う〜ん、ここは名探偵陽子さんの出番ね。

 

 

「みゃ?」

「どうしたの、陽子」

 私の肩に乗っていて今にも寝そうだった陽子が突然体を起こした。

「みゃっ」

「あ、ちょっと陽子」

 陽子は私の肩から飛び降りると、向こうから歩いてきた二人の女の人のほうへ駆け寄っていった。

 背が高くて綺麗な髪を腰の辺りまで伸ばした凄くスタイルのいい人と、小柄でふわふわした雰囲気がとても可愛らしい人。

 背の高い人を指しながら、こっちを向いて陽子がみーみーと鳴いていた。何か言いたいことがあるみたい。

「この猫はお主の姉か?」

「ええ、そうですけど……えええ?」

 背の高い人が突然そんな事を言ってきた。何の気なしに普通に答えちゃったけど……まさか、この人陽子が見えるんだろうか。

 

「ちょっとお稲荷様、いきなりそんな事を言ったら変な人に思われますよ。ごめんなさい、突然驚かせるような事言って」

 小柄な人が背の高い人をつついた。でも、何も聞かないってことは……この人にも見えてるの?

「あ、あの、うちこの近くなんで、よかったらお茶でもいかがですか」

 ここではまともに話が出来ないから、私は家に二人を招く事にした。

 
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