11.新しい家族 「お稲荷様、見てください、あんなところに狐が」 「ほう、まだ子供ではないか」 休暇を利用して、私達は北海道に旅行に来ていた。朝早く散歩に出かけると、偶然キタキツネの子供(北海道で会ったから多分そうだろうと思っただけだけど)を見つけた。
『ぱぱー、ままー』 「「?」」 ポンッと軽い音がして、いつの間にか幼稚園児くらいの裸の女の子が私に抱きついていた。まさかと思ったけど、小さな耳と尻尾がついていたから、やっぱりそのまさかなんだろう。 ちぎれそうなくらい振られている尻尾は……ひぃ、ふぅ……こ、ここのつ? 「お、お稲荷様、この子9本も尻尾が」 「むぅ、九尾の狐か。これは珍しいの。……ふむふむ……何と!」 「お稲荷様?」 「すまんすまん、どうもこやつは時間の渦に落ちてしもうたようだの」 「時間の渦、ですか?」 どうやらお稲荷様はこの子の記憶を辿ったみたいだ。こういうことをしれっとこなしてしまうのを見ると、やっぱりお稲荷様って神様なんだよなぁと改めて実感する。 「うむ。いわゆる神隠しというやつだの」 「ということは、この子の両親は」 「この時代にはおらぬということになるな。全くどうしたものか……」
ふと下を見ると、そこにはキラキラした瞳が二つ。その瞳を見ていると、どうしてだろう、母性本能のようなものが湧き上がってきた。 「お稲荷様、この子うちで預かりましょう」 「何? こやつは小さいといえども力を持った神ぞ。そんなものを飼おうなどと」 「大丈夫です、私仕事で子供の扱いには慣れてますし」 私はお稲荷様を説得した。
「むぅ……我はどうなっても知らんぞ」 あらら、ちょっと機嫌損ねちゃったかな? いつも以上に仏頂面のお稲荷様を見て、私は苦笑した。 「よーし、決まり! 貴方のお名前は?」 「くー、だよ。そらってかいてくーってよむの」 「くーちゃんか、いいお名前ね。本当のお父さんお母さんと会えるまで、私達と一緒に暮らさない?」 「うん、ぱぱとままといっしょにくらすー」 くーちゃんはにこっと笑った。九本の尻尾が千切れんばかりにブンブンと振れていた。 「それじゃあ、くーちゃん、これからよろしくね」 「うん! ぱぱー、おんぶー」 「全く、我はお主の父親ではないというに……」 そう言いながら、お稲荷様の顔は決して嫌そうじゃない。こうして見てると本当の親子みたい。
「……真理子よ、今度は一体何を考えたのだ」 いつもより低いお稲荷様の声が、いつもより高いところから聞こえてきた。 待てよ、男の人ということは、もしや……。 「ば、ばか者、どこを見ておるのだ」 ……やっぱりあった……それもとんでもなくでっかいのが、ズボンの下に。これ、勃っちゃったらどれくらいの大きさになるんだろう。ごくっ、私は唾を飲み込んだ。 ……こうして私の家族が一人増えた。
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